5月25日にオープンした米アマゾン・ドット・コムのアパレル専門店「アマゾン・スタイル(Amazon Style)」(写真:後藤文俊)
5月25日にオープンした米アマゾン・ドット・コムのアパレル専門店「アマゾン・スタイル(Amazon Style)」(写真:後藤文俊)

 米アマゾン・ドット・コムは5月25日、同社初となるアパレル専門の実店舗「アマゾン・スタイル(Amazon Style)」をオープンしました。

 アプリを介して試着を申し込んだり、試着室の鍵を開けたり(詳しくは後述)できる他、手のひら決済などの最新テクノロジーを導入。「他店にはない最新の買い物体験を提供する」とうたっています。そこで筆者は早速、1号店に出かけて買い物をしてきました(最終ページに、店内の様子を筆者が撮影した短い動画があります)。

約3万平方フィート(840坪)もある広い店舗

 店舗があるのは、米カリフォルニア州ロサンゼルス市の中心部から北に10マイル(16キロメートル)ほどのグレンデール地区にある「アメリカーナ・アット・ブランド(Americana at Brand)」という大型ショッピングセンター(SC)です。オープンは2008年。店舗があるフロアの上には、プール付きの高級アパートメントが入っている、複合型SCでもあります。

 建物は大きく豪華で、周囲の環境も整備され、まるで小さな街のような趣です。SCの中心部には広い芝生と噴水があり、芝生を囲む通路に沿って線路が敷設され、そこを路面電車が走っています。「ウォーター・オブ・アメリカーナ(Water of Americana)」というニックネームが付いた噴水では、時々ショーが実施され、来店客の目を引きます。

 このSCにはアマゾン・スタイルの他に、「アップルストア」と「ティファニー」、そして「テスラ」という人気ショップ“御三家”が出店。「ノードストローム」や「ナイキ」、アスレチックウエアブランド「ルルレモン」なども入居していました。

 アップルストアなどの集客力はとても強いので、この御三家に出店してもらうと、それに次ぐ人気のハイエンドブランドに出店してもらいやすくなります。知名度や人気の面ではやや劣るブランド/テナントに対する賃料を高めに設定することもできます。

 レストランも、なかなかのラインアップ。小籠包が人気の台湾ディンタイフォン(鼎泰豊)、人気外食チェーン「チーズケーキファクトリー(The Cheesecake Factory)」、そしてカップケーキの「スプリンクルズ(Sprinkles)」などが入っていました。

 今回のお目当てであるアマゾン・スタイルは、SCの西側に入居。隣は「H&M」、反対側は「セントラル・アベニュー」と呼ばれる大通りに面しているという絶好のロケーション。近くには別のSC「グレンデール・ギャラリア」があるのですが、そこからも徒歩で来店しやすい位置でした。アマゾン・スタイルの店舗面積は約3万平方フィート(840坪)と広いのですが、グレンデール・ギャラリア側から店舗を見ると、かなり細長い構造になっていることが分かりました。

アマゾン・スタイルの1階フロア(写真:後藤文俊)
アマゾン・スタイルの1階フロア(写真:後藤文俊)

 実際に店舗に入ると、まず入り口近くに婦人服売り場があり、2階の試着室へと続く階段やエレベーターがあり、そこを抜けると紳士服コーナーが設けられ、店の一番奥に1階の試着室がありました。入り口からこの試着室まで、通路が一直線に伸びる構造です。

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陳列されているのはサンプル品

 もう少し詳しく紹介すると、入り口の右側には返品を受け付けるリターンコーナーがあり、隣にはチェックアウト・レジが並んでいます。売り場にはメンズとウィメンズのアパレルとシューズ、アクセサリーが並んでいますが、アクセサリー以外は、サンプルのみの展示です。そしてアパレルをつるしているハンガーには、QRコードと価格(もしくは価格帯)、提供可能なサイズが記載されています。

 アパレル商品の価格帯はかなり幅広く、手ごろなベーシックアイテムもあれば、「カルバン・クライン(Calvin Klein)」や「リーバイス(Levi's)」「ラコステ(Lacoste)」そして「ヴィンス(Vince)」「セオリー(Theory)」「エキプモン(Equipment)」「レベッカ・テイラー(Rebecca Taylor)」など、プレミアムブランドもある多彩なラインアップ。アマゾンのプライベートブランド(PB)「アマゾン・エッセンシャル(Amazon Essential)」や「アマゾン・アウェア(Amazon Aware)」の商品も並んでいます。

 筆者が訪問した時には、価格が最大50%オフになる「セールス&ディールズ」というセールを実施中で、それを知らせるポップには、トップス、ボトムズ、ドレス、そしてジャケットが割引価格になるQRコードが表示されていました。このQRコードをスマートフォンでスキャンすると、セール価格で購入できる商品が一覧できるのです。

 1階のフロアは、一見すると普通のアパレル店と大差ありませんが、陳列されているのがサンプル品、各1着のみなので、かなりスッキリした印象です。一通り店舗を見て回った後、最大の特徴であるアマゾン・アプリを介しての試着をしてみました。

店舗に陳列されているサンプル品。気に入って試着したいと思ったら、ハンガーに付いているQRコードをスマートフォンで読み取る(写真:後藤文俊)
店舗に陳列されているサンプル品。気に入って試着したいと思ったら、ハンガーに付いているQRコードをスマートフォンで読み取る(写真:後藤文俊)
ハンガーのQRコードを読み込んで表示された商品画面(写真:後藤文俊)
ハンガーのQRコードを読み込んで表示された商品画面(写真:後藤文俊)

 まず、陳列されている商品(サンプル品)を見て、気に入って試着したいと思ったら、ハンガーに付いているQRコードをスマートフォンで読み取ります。するとアマゾン・スタイルの商品ページに飛び、その商品のレビューや価格(帯)、店舗に在庫があるカラーやサイズが確認できます。そして「試着します(Try on)」、または「購入してピックアップします(Send to Pickup)」のどちらかを選びます。

試着室の中でもレコメンドされる

服のサイズやスタイルの好みを尋ねる「スタイル・サーベイ(Style Survey)」の画面(写真:後藤文俊)
服のサイズやスタイルの好みを尋ねる「スタイル・サーベイ(Style Survey)」の画面(写真:後藤文俊)

 ここで「試着します」を選ぶと、次に、「車椅子でも利用しやすいよう配慮された試着室が必要かどうか」を聞かれます。それに答えると、次に服のサイズやスタイルの好みを尋ねる「スタイル・サーベイ(Style Survey)」が始まります。具体的には、男性・女性の別をタップし、トップス(XS~XXLなど)やボトムズ(ウエストと股下)、靴、それぞれのサイズをフィート、インチ、もしくはセンチメートルで入力します。

 筆者がここまで入力したところ、次に、「どのライフスタイルでレコメンデーションを受けたいですか」と聞かれ、「アスレジャー」「カジュアル」「ビジネス・カジュアル」「ナイトアウト」から選択する画面が出てきました。

利用者の身長と体重を入力する画面(写真:後藤文俊)
利用者の身長と体重を入力する画面(写真:後藤文俊)

 選択を終えると、ここまでの入力項目を「登録し、続ける(Save and Continue)」のボタンが出るのでタップ。すると、画面に表示される「おすすめアイテム」について、「好き(I'd wear it)」か「嫌いか(Not for me)」を選ぶ画面になりました。

 15種類のアイテムついて「好き、嫌い」を選ぶと、身長と体重を入力する画面になります。入力し終えると、試着室が用意できるまでの時間を示すステータスバーが表示される商品ページに戻ります。

 初回は入力項目が多く煩雑ですが、事前にアプリからファッションの好みなどを登録しておくこともできます。手間が省ける上に、服を試着する部屋(試着室)に設置してあるタッチスクリーンで、アマゾンがお薦めする商品が映し出される(レコメンデーションされる)ようになります。

 こうした準備をした上で、店の中から試着したい商品を決め、そのQRコードをスマートフォンで読み込むと、「番号◯◯の部屋の用意ができました。商品1点をお部屋にご用意し、10分間ホールド(確保)しておきます」という表示が出ます。これを見て、指定された番号の試着室へと向かい、「試着室を解錠する(Unlock your room)」ボタンを押し、試着室に入るという流れです。

店舗の2階に並んでいる試着室(写真:後藤文俊)
店舗の2階に並んでいる試着室(写真:後藤文俊)

 スマートフォンを持っていなかったり、アプリをダウンロードしていなかったりした場合は、店舗スタッフがタブレット(ファイアHD8)を使って、代わりに操作してくれます。スタッフのタブレットは顧客のアプリとデータが同期されるので、スタッフが代わりに入力した好みやサイズなどが入力済みの状態になり、次に店を利用する際に便利です。

試着室の解錠もアプリから

 こうして店内の商品を見て回った筆者は、気になった「アンダーアーマー」のワークアウトパンツ(30ドル)を売り場スタッフに見せながら、「これとスタイルや素材(ポリエステル100%)が同じで、アマゾン・ブランドの商品はないか?」と尋ねてみました。すると販売員はタブレットを操作。より安価なアマゾン・エッセンシャルズのトレーニングパンツ(ポリエステル93%、ポリウレタン7%)を探してくれました。

 「これを試着したい」とスタッフに伝えると、「あなたのスマートフォンに商品のページを送るので、アプリを開いて“インストア・コード”を表示して」と言われました。インストアコードとは、私(顧客)と店舗スタッフのデータを同期するためのもの。そして私がQRコードを示してスタッフがスキャンすると、私のアプリにトレーニングパンツのページが表示されました。

 こうして商品を選んだら次は試着です。アマゾン・スタイルの試着室は1階に17室、2階には23部屋。試着室は常に施錠されており、勝手に入ることはできません。

試着の準備ができると、アプリに「部屋番号〇〇の用意ができました。商品○点をお部屋にご用意しました。10分間ホールド(確保)しています」などと表示される(写真:後藤文俊)
試着の準備ができると、アプリに「部屋番号〇〇の用意ができました。商品○点をお部屋にご用意しました。10分間ホールド(確保)しています」などと表示される(写真:後藤文俊)

 アプリから「試着」を選ぶと、店舗2階の倉庫から、売り場のほぼ中央左側にあるガラス張りの運搬用エレベーター2基で1階の試着室まで、商品が運ばれます。準備ができると、アプリに「部屋番号〇〇の用意ができました。商品○点をお部屋にご用意しました。10分間ホールド(確保)しています」と表示されます。これを見て試着室へ行き、ドアの前で「試着室を解錠する(Unlock your room)」ボタンをタップすると、鍵が開きます。

 試着室はウォークイン・クローゼットのような形で、横幅が150センチメートル、奥行きが180センチ以上あり、かなり広いです。その中に扉の付いたクローゼットと、扉のないオープン・クローゼットが備え付けてあり、どちらも奥行きは60センチほどでした。部屋の壁には20インチのタッチスクリーンと、ライトがつく鏡があり、タッチスクリーンには「ウェルカム・ツー・ユア・ルーム(Welcome to your room)」という挨拶と利用者の名前、そして「試着を始める(Get Started)」ボタンが表示されるので、そのボタンを押して、試着します。

2号店の情報はないけれど

試着室の中にあるクローゼット(写真:後藤文俊)
試着室の中にあるクローゼット(写真:後藤文俊)

 タッチスクリーンの下部には、「ジャスト・フォー・ユー(Just for You)」の文字とともに、レコメンドされた商品も映し出されます。試着するまでに実施したスタイル・サーベイや購入履歴などのデータを活用し、タッチスクリーンがパーソナルな「ルックブック(商品カタログ)」となっているのです。このタッチスクリーンからも、レコメンデーションされた商品を試着室に持ってきてもらうことができます。商品は、2階の倉庫から試着室内の扉のついたクローゼットに届けられます。ちなみに、この扉はロックされており、着替えている姿をスタッフに見られることはありません。

試着室に備え付けられた20インチのタッチスクリーンとライト付きの鏡(写真:後藤文俊)
試着室に備え付けられた20インチのタッチスクリーンとライト付きの鏡(写真:後藤文俊)

 試着を終えたら、購入しない商品はそのまま置いておき、購入したい商品だけをレジへ持って行きます。会計はクレジットカード、デビットカード、現金の他、手のひら決済「アマゾン・ワン(Amazon One)」が使えます。筆者は結局、ランニングシューズを含む10点を試着し、3点を購入しました。2桁の商品を試着したのはこれが人生初です。

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