「Uber Eats」が楽天グループと連携し、楽天IDや楽天ペイを利用できるようにするなど強化を図る一方、「DiDi Food」は国内でのサービス終了を発表。フードデリバリーやクイックコマースを巡る動きが再び激しくなってきているが、今後の競争の鍵を握るのはどのサービスだろうか。

楽天グループと深い連携を図るUber Eats

 コロナ禍で人気が急速に高まったフードデリバリーサービス。一時は多くの外資系企業が国内市場に参入し競争が激化したが、2021年末に「foodpanda」を展開するドイツのDelivery Hero(デリバリーヒーロー)が日本市場からの撤退を表明し、「DoorDash」を展開する米DoorDash(ドアダッシュ)が「Wolt」を展開するフィンランドのWolt Enterprises(ウォルト・エンタープライゼス)を買収するなど、急速に再編が進むこととなった。

 その一方で、Zホールディングスが傘下にある出前館のインフラを活用した「Yahoo!マート by ASKUL」を展開するなど、フードデリバリーからクイックコマースへとサービスの幅を広げる動きも出てきており、現在も大きな動きが相次いでいる。そして2022年4月にも、この分野を巡って大きな動きが2つあった。

 その1つは、米Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)が展開しているフードデリバリーサービス「Uber Eats」を巡る動きだ。ウーバー・テクノロジーズの日本法人であるUber Eats Japanは2022年4月18日に発表会を実施し、国内eコマース大手の楽天グループとの連携を発表した。

Uber Eats Japanと楽天グループは2022年4月18日に連携を発表、これにより「Uber Eats」で「楽天ID」や「楽天ペイ」が利用できるようになる。写真は同日に実施された、両社のサービス連携に関する記者発表会より(筆者撮影)
Uber Eats Japanと楽天グループは2022年4月18日に連携を発表、これにより「Uber Eats」で「楽天ID」や「楽天ペイ」が利用できるようになる。写真は同日に実施された、両社のサービス連携に関する記者発表会より(筆者撮影)
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 この連携によりUber Eatsでは、新たに楽天グループの「楽天ID」を用いてログインできるようになったほか、「楽天ペイ」での決済も利用できるようになった。さらに言えば楽天ペイの利用で「楽天ポイント」を使ったり、ためたりすることもできるようになった。これらの施策により、Uber Eatsはポイントを軸に楽天グループのサービスを積極利用する、いわゆる「楽天経済圏」に属するユーザーを取り込みやすくなった。

 一方で楽天グループは、現在スーパーマーケット大手である西友とのネットスーパー事業に注力していることもあり、クイックコマースの分野は自社で積極展開はせず、他社との連携を重視していく姿勢を示していた。それゆえこの動きは楽天グループがUber Eatsとの連携で、手薄になっていたクイックコマース分野の“穴”を埋めることにもつながっている。

 しかも両社は今後、日本ではタクシー配車サービスとして展開している「Uber」など他サービスとの連携を検討しているほか、国内だけでなく海外でも連携を模索する姿勢も見せていた。単なるサービス連携にはとどまらない、より密な関係を構築しようとしているようだ。

両社はタクシー配車の「Uber」や、「楽天市場」のセールなどでも連携を図る検討をするなど、今後より深い連携を図っていく姿勢を示している。写真は2022年4月18日のUber Eats Japanと楽天グループのサービス連携に関する記者発表会より(筆者撮影)
両社はタクシー配車の「Uber」や、「楽天市場」のセールなどでも連携を図る検討をするなど、今後より深い連携を図っていく姿勢を示している。写真は2022年4月18日のUber Eats Japanと楽天グループのサービス連携に関する記者発表会より(筆者撮影)
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日本撤退を打ち出すDiDi Food、親会社の事情も影響か

 そしてもう1つ、大きな動きを見せたのが中国の滴滴出行(ディディ)の日本法人で、フードデリバリーサービス「DiDi Food」を展開しているDiDi Food Japanである。同社は、2022年5月25日をもって日本でのDiDi Foodにおける宅配フードサービスを終了させると2022年4月20日に発表したのだ。

 DiDi Foodは2020年に関西でサービスを開始し、それ以降徐々にサービスエリアを広げてきたのだが、およそ2年という短い期間で日本から撤退するという判断に至ったようだ。なお今後は、滴滴出行とソフトバンクの合弁企業であるDiDiモビリティジャパンが展開しているタクシー配車サービス「DiDi」に注力していく方針を示している。

DiDi Food Japanのプレスリリースより。「DiDi Food」は2022年5月25日をもってサービスを終了、今後はタクシー配車の「DiDi」に注力するとしている
DiDi Food Japanのプレスリリースより。「DiDi Food」は2022年5月25日をもってサービスを終了、今後はタクシー配車の「DiDi」に注力するとしている
(出所:DiDi Food Japan)
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 DiDi Foodが撤退に至った理由として、もちろんフードデリバリーを巡る競争の激化が挙げられるだろう。コロナ禍で需要が高まったとはいえ、新規参入が相次ぎ短期間のうちに急速に競争が激化したことにより、とりわけDiDi Foodのような後発の事業者にとって厳しい市場環境となってしまったのは確かだろう。

 ただDiDi Foodに関して言うならば、親会社の動向も少なからず影響しているのではないかと考えられる。というのもここ最近中国政府は、同国のIT企業に対する規制強化の姿勢を急速に強めており、その影響を受けてか滴滴出行は、2021年6月に上場したばかりのニューヨーク証券取引所で上場を廃止するのではないかとの報道もいくつかあるようだ。

 そうしたことから同社は中国外での事業拡大に向けた積極的な投資が難しい状況にあると見ることができよう。とりわけ急激に競争が厳しくなった日本市場で成長するには一層の投資が必要なだけに、環境変化でそれが難しくなったことが今回の撤退劇につながっている可能性は十分考えられるだろう。

後発の2陣営の動向が今後の競争を左右か

 そしてDiDi Foodの撤退によって、国内でのフードデリバリーに関連する主要な陣営はUber Eats、出前館、KDDIの出資を受けている「menu」、そしてWoltとDoorDashの連合の4つに絞られることとなる。そしてここ最近の動きを見れば、先行する2陣営が一層有利な立場に立ったことは確かだろう。

 実際Uber Eatsは楽天グループと強い連携を結んだことで楽天経済圏のユーザー獲得が見込めるようになり、さらなる規模拡大の余地が出てきた。また出前館は冒頭で触れた「Yahoo!マート by ASKUL」のように、実質的な親会社となったZホールディングスが事業強化に向け積極的に動いていることが強みに働いているといえよう。

 それだけに今後注目されるのは後発の2陣営の動きだ。とりわけドアダッシュに関しては、ウォルト・エンタープライゼスの買収取引が完了するのが2022年前半とされているが、国内で事業が重複しているWoltとDoorDashをどのように整理してしていくのかは引き続き注目されるところだ。

 ここ最近の両サービスの動向を見るに、DoorDashには積極的な動きがあまり見られない一方で、Woltはエリア拡大や、配達専用のいわゆるダークストアである「Wolt Market」の拡大を図ったり、法人向けの即時配送プラットフォーム「Wolt Drive」を開始したりするなど、事業拡大にかなり意欲的に動いている様子がうかがえる。そうしたことから日本においては買収される側ながら先行しているWoltのブランドを残す、あるいは両ブランドを併用していく可能性もあるかもしれない。

Woltではダークストアの「Wolt Market」を積極展開しており、2022年1月北海道函館市などに、2022年2月には広島県広島市などに新たなWolt Marketをオープンしている
Woltではダークストアの「Wolt Market」を積極展開しており、2022年1月北海道函館市などに、2022年2月には広島県広島市などに新たなWolt Marketをオープンしている
(出所:Wolt Japan)
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 一方menuに関する動向を見ると、やはり事業拡大に向け試行錯誤が続いている様子がうかがえる。例えばmenuでは、KDDIの有料オンラインサービス「auスマートパスプレミアム」会員に向け、menuのデリバリーを注文すると「Pontaポイント」を最大30%還元するというキャンペーンを2021年10月より展開しているのだが、これだけ大盤振る舞いのキャンペーンを現在も継続している様子をみるに、顧客獲得競争が厳しい状況にある様子を見て取ることができる。

 急速な再編でフードデリバリーサービスは一時に比べれば競争環境が落ち着きつつあるが、その一方でコロナ禍による“特需”も徐々に縮小しつつあり、4陣営が全て生き残れるかどうかを見極めるのはまだ難しい。それだけに、とりわけ後発の2つの陣営にとっては、厳しい生き残り競争がまだまだ続くことになりそうだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。

[日経クロステック 2022年5月9日掲載]情報は掲載時点のものです。

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