SDGsへの取り組みは、もはや企業にとって避けて通れないものといっていいだろう。消費者の間で認識も広がり、積極的に取り組まないことは企業にとってリスクとなってくる。
電通パブリックリレーションズ(東京・港)の企業広報戦略研究所が全国の消費者約1万人を対象に調査したところ、SDGsの認知率は2020年は39.8%と、前年比15.6ポイント伸びた。若い世代ほど認知率が高く、20代男性は61.7%に達した。さらに、企業のSDGsへの取り組みを認知した消費者の71.1%が、「その企業の商品やサービスを購入または利用」するなど何かしらの行動を起こしたと回答したという。
こうした中、米テラサイクルの創業者、トム・ザッキー氏が立ち上げたLoopは、19年5月に米国とフランスでサービスを開始。繰り返し使える専用容器を使い、容器を回収・再利用することで、ごみを出さないライフスタイルを提供する。これまでの容器使い捨て文化からの脱却を促すLoopの仕組みは、SDGsにつながる取り組みとして注目を集めている。
Loopには食品や飲料、日用品などを中心に200以上の参加メーカー(ブランドパートナー)がおり、取り扱い商品数は500以上。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や英蘭ユニリーバ、スイスのネスレなどがブランドパートナーに名を連ねる。ECユーザーは米国で約3万5000世帯、英国とカナダでそれぞれ5000世帯。最近はECに加えて、店舗販売にも乗り出している。
米国、フランス、英国、カナダに続く5番目の市場である日本は、ECと店舗販売が同時に始まるのが他の国にはなかった点だ。膨大な商品が存在する食品や日用品のジャンルにおいては、Loopの商品ラインアップはまだまだ少ない。そのため、他の通常商品と合わせて購入できる店舗販売を、ビジネス的にも消費者の利便性的にも重視している。
Loopは日本でも最大5000世帯を対象に自社のECを運営しつつ、回収した容器の洗浄と保管を担当し、消費者とブランドパートナーの間をつなぐ役割を担う。容器の洗浄委託費とブランドパートナーとの契約金がLoopの主な収入源だ。LoopのECで販売した商品は、専用のトートケースに入れて配送する。これなら緩衝材を使う必要がないため、ごみが出ない。日本で使用するLoopのトートケースは、米国のLoopで使っているものよりもコンパクトなものを用意する。
関東エリアのイオンとネットスーパーで販売開始
ECと両輪となる店舗販売を担うLoopの小売りパートナーは、日本ではイオン。サービス開始時は、関東エリアの店舗で販売を開始する。当初は、東京都内16店舗、神奈川県内と千葉県内で1店舗ずつ、合計18店舗で販売を予定している。また、Loop商品を販売するイオンの店舗では、ネットスーパーでも取り扱う予定だ。
Loop商品を店舗で購入した消費者は、使い終わったら容器を店舗に持参し、回収ボックスに入れる必要があるが、ネットスーパーで購入したLoop商品の容器は、配達員が次回以降に届けた際に回収する。店舗に持参する手間がないため、重い荷物を持つのが苦になる人にとってはネットスーパーでの購入のほうがメリットは大きくなる。
イオンは1991年に「買物袋持参運動」を始め、エコバッグを推奨してきた。2007年からは、食品売り場のレジ袋無料配布中止を決めるなど、レジ袋の使用量削減に取り組んできた。プライベートブランドである「トップバリュ」の商品は、パッケージや商品素材に竹素材などの環境配慮型素材を取り入れるなどしている。ほかにも、食品トレーや牛乳パックなどを回収する資源回収ボックスや古紙、ペットボトル回収機を設置するなど、環境保全活動を進めてきた。これまでのリサイクルに加えて、容器ごみそのものを出さないという新しい環境保全活動の選択肢として、Loopへの参画を決めたという。
販売店舗は今後、本州、四国の店舗に拡大することを目標にしている。商品数も、ループ・ジャパン(横浜市)や参加メーカーと連携し、増やしていきたい考えだ。Loop商品に適しているのは、使用頻度や購買頻度がある程度高いもの。そのほうがより多くのごみ削減につながる。
エコよりも容器の利便性やデザイン性が魅力
日本におけるLoop開始時にブランドパートナーとして参加する企業は24社。21年春以降としているサービス開始に合わせて商品を販売するのはその半数ほど。容器を含む商品開発や販売価格の決定は各メーカーに委ねている。販売価格は、通常商品と同程度か、若干高くなるものもあるという。
●公表済みのブランドパートナー(16社)
(五十音順)
- アース製薬
- 味の素
- 江崎グリコ
- エステー
- NS ファーファ・ジャパン
- 大塚製薬
- キッコーマン
- キヤノン
- キリンビール
- 資生堂
- ネイチャーズウェイ
- フィッツコーポレーション
- P&Gジャパン
- ユニ・チャーム
- luv waves of materials
- ロッテ
Loop商品で注目したいのは、各ブランドパートナーが採用する容器だ。米国のLoopに関する調査によると、消費者がLoop商品を購入する理由で一番多かったのは「利便性」で、次が「デザイン性」、3位が「家のごみが減った」だ。つまり、環境負荷の低減よりも、容器のデザイン性に魅力を感じて購買した消費者が多いことが分かる。
Loopは、容器開発におけるブランドパートナーへのコンサルティングも行う。Loopの容器に関するガイドラインには、3つの指標がある。洗浄しやすさを意味する「洗浄性」と、最低10回以上は使える「耐久性」。そして「LCA(ライフサイクルアセスメント)による環境影響評価」だ。使用できる素材は決まっており、ガラスやステンレス。プラスチックのうち、リサイクルしても劣化が少ないABS樹脂なら使用可能だ。
ユーザビリティーを重視したロッテのステンレス容器
現在、Loopのブランドパートナー各社は、消費者にとって魅力的なLoop用の容器を鋭意開発中だ。ほぼ完成したものもある。
例えばロッテは、看板商品である「キシリトールガム」をLoopで販売する。新たに開発中のLoop専用のキシリトールガムの容器は、耐久性があり繰り返し使えるステンレス製。スタイリッシュでシックな印象に仕上がっている。
表面はマットなサテン仕上げとし、レーザー加工によって商品名などを印字した。印刷では繰り返し使用し、洗浄するうちに傷ついたり剥がれたりするため、レーザー加工を採用したという。手になじみやすく、持ったときにしっくりくる容器は、洗浄性と使いやすさに配慮した大きな開口部を持つ。本体開口部の周りに使い捨てのパッキンを使うことで、蓋と本体の程よいフィット感を実現している。目指したのは、蓋をワンタッチで開けられる使い勝手のよさだという。
新容器の開発に当たっては、すでに海外のLoopで使用されている容器を使う選択肢や、市販の容器を使う選択肢もあった。しかし、他国のLoopで実績がある容器はスクリューキャップのもの。それでは、ワンタッチで蓋が開く通常商品よりも、ユーザービリティーで劣る。一方、包装容器メーカーが提供している市販容器では、洗浄性や耐久性というLoopの基準を満たすのが難しかった。優れた使い勝手を保ちながら、Loopが求める基準を満たすには、新容器を開発するしかないと判断した。
Loopで販売するキシリトールガムの容量は、通常商品の1.5倍ほどとした。通常商品よりも小さいと商品力に乏しくなり、大きくすれば重くなって、持ち帰りにくくなる。
「最終的に決めたのは、通常商品よりもちょっと大きいサイズ。販売価格は、通常商品よりもあまりにも高いと手に取ってもらいにくくなる。価格は未定ながら、通常商品とほぼ同等を目指している」(ロッテのマーケティング部 情報クリエイティブ担当 パッケージ企画課 藤原普夫氏)
ロッテはこれまでも、脱プラスチックに力を入れてきた。キシリトールガムのボトルは発売からこれまでに金型を2回変更し、プラスチック容器の肉薄化を進めてきた。現在販売するキシリトールガムの容器は、初代と比べると10%近くプラスチック使用量を減らしている。21年の春には、さらにプラスチック使用量を削減した新容器をリリースした。Loopへの参加は、脱プラスチックを実現する手段の一つに位置付けている。
「ユーザーの生活に溶け込むようなスタイリッシュな容器。単純にかっこいいと思ってもらい、手に取ってもらうことをきっかけに、環境への取り組みに興味を持ってもらいたい」(ロッテの経営戦略本部 CSR部 飯田智晴氏)
キッチンに飾ってもらえるような容器を目指した味の素
味の素がLoopで販売するのは和風の「ほんだし」、洋風の「コンソメ」、中華の「丸鶏がらスープ」という3種類の顆粒調味料だ。どの商品をLoopで販売するかという議論を重ね、最終的に同社の主力商品を選んだ。その理由は、需要が高く、回転しやすい商品のほうが、成果やオペレーションの検証をしやすいと考えたからだ。
Loop商品は、Loopが回収、洗浄し、ブランドパートナーに戻ってきた容器に中身を詰め直す工程があるため、容器の在庫管理などの新たなオペレーションが必要となる。味の素では、スタート時には既存設備を活用し、大きな設備投資をすることなく、Loop商品を生産できるよう工夫している。価格は、通常商品よりも少し高くなる予定だという。
3種類の調味料の新容器はガラス製。当初は、よりデザイン性を高めることができると考えてステンレス製容器も検討したが、細長い、スタイリッシュなガラス瓶に決定した。ガラスの容器に直接塗装を施すことで、通常商品に使っているプラスチック製シュリンクフィルムの使用を削減。キャップも既存商品のプラスチック製からスチール製に変更している。
「使った後に戻していただければ、自宅では廃棄物が一切出ないプラスチックフリーな容器。調味料はキッチンの奥にしまわれることが多いが、3つセットでキッチンに飾ってもらえるような、スタイリッシュな容器を目指した」(味の素の食品事業本部 生活者解析・事業創造部 新事業グループマネージャー 武内祥平氏)
味の素は、17年度に「ほんだし」のスティック商品の一部を紙容器に変更し、プラスチック使用量を年間11トン削減。また、グループ会社の「ブレンディ」の容器をコンパクトにして、年間25トンのプラスチック使用量を削減した。30年度までにプラスチック廃棄物をゼロにすることを目標に掲げている。
これまでプラスチック使用量の削減とリサイクルに力を入れてきたが、今回のLoopへの参加によってリユースも推進する。生分解性のプラスチックの使用など、さまざまな方法と組み合わせることで廃棄プラスチックゼロ実現を目指している。
「使い捨てない容器を通じて、新たな消費者と新たな接点を持てるのもLoopの魅力。商品を売って終わりだったビジネスモデルからの転換にも価値がある」(武内氏)
Loop商品が、従来のエコを売りにした商品と大きく異なるのは、消費者が無理なく自然に選択できる点にある。中身は各業界トップクラスのメーカーによるものであり、品質で妥協する必要はない。課題は認知度をいかに高めるかだろう。店頭だけのPRでは、なかなかユーザーが拡大しない恐れがある。SDGsや環境問題に関心が高い層だけでなく、広く一般消費者にどうアプローチし、巻き込んでいくか──。SNSなども駆使した多層的なコミュニケーション戦略が必要だろう。
●ブランドパートナーがLoop用に開発中のパッケージ例
(この記事は、日経クロストレンドで3月1日に配信した記事を基に構成しました)
※この記事を含む特集「SDGs 2021」は日経クロストレンドに掲載されています。
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