スーパー業界は人手不足の解消や生産性向上の課題を抱えている。経営規模を問わず、DX(デジタルトランスフォーメーション)が一つの鍵になる。次世代スーパーのあるべき姿を探る競争が熱を帯び始めている。

 炭鉱の町として知られた福岡県田川市に今、DXの導入に悩む小売事業者の注目が集まっている。ここにある「スーパーセンタートライアル田川店」が、小売り改革で全国でも先端を行くIT(情報技術)を導入しているからだ。

トライアルが導入を進める「レジカート」。付属のバーコードリーダーで商品を読み取り、タブレット端末に価格を表示する。関連する商品やクーポンを表示して購買意欲を刺激する(写真=飯山 翔三)
トライアルが導入を進める「レジカート」。付属のバーコードリーダーで商品を読み取り、タブレット端末に価格を表示する。関連する商品やクーポンを表示して購買意欲を刺激する(写真=飯山 翔三)

 同店は2019年11月にリニューアルし、「スマートストア」に変貌した。タブレット端末とスキャナーを搭載した「レジカート」をはじめ、リテールAI(人工知能)カメラやデジタルサイネージ(電子看板)などを設置している。

(写真=飯山 翔三)
(写真=飯山 翔三)
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 レジカートを使うには、まずプリペイドの会員カードに入金する。商品をカート付属のバーコードリーダーで読み取ると、タブレット端末に価格が表示される。この際、画面にはおすすめ商品やクーポンなどの情報も表示。その日のお買い得商品を薦めて購買意欲を刺激する。インターネットショッピングでおなじみのレコメンド機能を、リアル店舗の買い物で実現する仕組みだ。会員カードに蓄積された購買履歴などを基に推薦の精度を高める。

レジ関連の人件費2割削減

 買い物後は専用ゲートを通過すれば決済が自動で完了。商品の登録漏れを防ぐために店員が点数を確認するが、通過に2~3分かかる一般的なレジ会計に比べ、十数秒で精算が終わる。同店舗でのレジカート利用率は4割で、レジ関連の人件費を2割削減できたという。

 レジカートを開発したのは、福岡市を拠点にスーパーを270店営むトライアルホールディングスだ。グループの技術開発会社、Retail AI(東京・港)が実務を担っている。トライアルはすでに、自社の55店舗にレジカートを導入。今後、田川店のように、リテールAIカメラなども含むスマートストアへと進化させていく。

 Retail AIの永田洋幸CEO(最高経営責任者)はトライアル創業者である永田久男会長の息子。米国の大学を経て、09年に中国で小売り向けコンサルティング会社を起業し、11年には米シリコンバレーでビッグデータ分析会社を興した経験を持つ。15年からトライアルグループに入り、18年にRetail AIを立ち上げた。

 永田CEOは「小売店に必要な考え方は、あくまでDXは消費者のためにあるということ」と語る。ITを使って店舗運営の生産性を高めた分、浮いた経営資源を商品力の改善などに回したいという。例えばレジカートによる会計時間の短縮は、人件費の削減や駐車場の回転率アップなどの効果を生み、その結果収益が上がる。これを原資に、新たな改革のサイクルを回していく。

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