新型コロナウイルス禍を契機に高まった衛生意識。消費者は商品の“お試し体験”を敬遠する傾向にある。逆風の店舗販売はバーチャルの世界に課題解決の糸口を見いだし、デジタル技術を販売促進に活用し始めた。新たな顧客接点を模索すべく導入した「バーチャル試着」だが、リアルの購入体験を超える技術も生まれている。

 新型コロナウイルス禍を経て、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用した販売促進が脚光を浴びている。注力するのは化粧品やアパレルなど、人との接触が制限されたことで店舗から客足が遠のいた業界だ。デジタル技術の活用でリアルに近い、もしくはリアルを超えた購入体験を提供する仕組みが急加速で進化している。

 衛生意識が高まった消費者は、化粧品のテスターや衣類の試着を敬遠する傾向が強い。リアルのショッピング体験を売りに顧客の心をつかんできた店舗販売は昨今、成立しにくくなっている。そこで、新たなコミュニケーション手法として「バーチャル」を用いた“お試し体験”の導入が広がっているのだ。

 例えば、街中で見かける一般的な薬局の化粧品コーナー。アイシャドーの試供品の横にはQRコードが貼られている。スマートフォンで読み取るとカメラが起動、そのまま試供品にかざすとカメラが映し出す空間に、瞬きするまぶたの映像が浮かび上がった。

 その目元には試供品のシャドーが施されている。ARを活用して、メークの仕上がりがどのように映るかを再現しているのだ。この技術は、花王の化粧品ブランド「KATE(ケイト)」が提供するデジタルテスターだ。

 花王は2021年7月にデジタルテスターを導入。メークの仕上がりや色、質感をARで比較できるようにした。衛生面から試供品の利用に消極的な消費者も、手軽に使用感を確認できる。自宅で気軽に試せるため、EC(電子商取引)サイトでの購入に限らず、買いたい商品を絞り込んで店舗で購入する利用者も増えてきた。バーチャル化が消費者の購買意欲を喚起しているのだ。

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バーチャルで満足度高める

 さらに、21年2月にはLINE公式アカウントコンテンツ「KATE MAKEUP LAB.」を開設。人工知能(AI)による骨格診断や、スマホで撮影した自分の顔に化粧品を試せるバーチャルメーク機能を導入した。アカウント開設後、バーチャルメークは1週間で利用回数が230万回を超えたという。花王DX戦略推進センターの豊田正博副センター長兼DXデザイン部長は「1人で20回以上試している場合もある」と説明する。

 バーチャルを活用した消費者へのアプローチは、顧客満足度とエンゲージメントの向上にもつながっている。店頭で全てのテスターを試すのは難しいが、バーチャルならば気に入った商品が見つかるまで何度もトライできる。事実、ケイトは21年に全メーク市場シェアでトップブランドになった。顧客体験の向上を意識したバーチャルへの取り組みが支持されたのが理由の一つだろう。

 花王がデジタルトランスフォーメーション(DX)強化に取り組み始めたのは18年。「ECやD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の台頭で競争が激化し、大衆向けビジネスでは通用しなくなってきた」(DX戦略推進センターDXデザイン部の齋藤寛之氏)ことが背景にある。

 花王のDX導入において陰の立役者となったのが台湾発祥のパーフェクト(東京・港)。高度な顔認証とAIを利用して試着やメークなどのバーチャル体験を提供する会社だ。パーフェクトとの契約締結で花王のデジタル化は一気に加速。22年8月時点でケイト含む15ブランドがパーフェクトのサービスを利用しており、今後もその数を増やす予定だ。

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