内容紹介

M&Aに欠かせない企業価値評価(バリュエーション)が、日本では恣意的に利用されることが少なくない。その問題点を的確に解説する。

おすすめポイント

バリュエーション(企業価値評価)とは、特定の会社自体の価値やその株式の価値を算出する手法。日本にはM&Aが盛んになり始めた20世紀末に導入され、瞬く間に定着しました。M&A、TOB、事業承継、事業分割において不可欠なデータを提供するバリュエーションですが、つぎはぎで導入されたこと、司法の理解が追いつかなかったこともあって様々な面で解釈の誤り、恣意的な運用といった歪みが生じています。最高裁の決定も実務の慣行とかけ離れたものが散見され、実務家は最高裁に振り回されている状況にあるのです。
例えば、アートネイチャーとJCOMの判決内容は結論部分が類似していて、算定された価格について裁判所は判断しないというスタンスをとっています。そのため、当事者にとっては、自己に都合の良い株式価値算定書が入手できれば、有利な判決を受けやすいという状況に現状はなりつつあります。このスタンスが踏襲されてしまうと、市場メカニズムが十分に機能せず、日本のガラパゴス化は不可避です。実務家は企業価値を計算するだけでは済まされない。どこが落とし穴になりかねないのかを理解する必要があるのです。
バリュエーションが裁判で争点となる場面としては、次の4つが想定されます。
(1)M&Aにおいて反対株主が株式の買い取り請求権を行使して「公正な価格」で買い取ることを会社に請求する場面
(2)株式ファイナンスにおいて発行価額が特に低い時に株主総会の特別決議を経る必要がある場面
(3)非公開会社の譲渡制限株式について株主が譲渡承認請求をする場面
(4)新株予約権の評価
これらは、大企業のみならず中小企業にも生じうるものです。本書は、企業価値評価の実務家、ファイナンス研究家、会社法研究家がタッグを組んで、実践的な知識の向上を図り、司法の歪みを正し、国際的に標準の解釈を示す問題提起の書。執筆者の多くは、様々な裁判で意見書を求められており、日本の特異な状況に危機感を抱いています。
バリュエーションそのもの解説書は、入門レベルから専門書まで数多く刊行されていますが、日本においてどのような問題が存在し、実務上何に注意すべきかといった観点からの解説はなされていません。バリュエーションは目次にあるように非常に幅広い分野をカバーしているため、単独の筆者では問題提起を含んだ解説は不可能です。