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「競争」から「共創」へ メタバース市場形成の動き加速 METAVERSE EXPO JAPAN 2022

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巨大仮想空間メタバースの今と将来を発信する「METAVERSE EXPO JAPAN 2022」(完全招待制)が7月27〜28日、都内で開かれた。エキシビション会場では主催の米メタ・プラットフォームズ(通称メタ、旧フェイスブック)をはじめ17社が先進技術やコンテンツを展示。カンファレンスでは各界の識者が登壇した。競争よりも「共創」を合言葉に、新市場形成への動きが加速していることを印象付けた。

デジタル経済、オープンに構築

カンファレンスのオープニングを飾ったのは、「METAVERSE EXPO JAPAN 2022」を主催するメタの日本法人、フェイスブックジャパンの味澤将宏氏によるスピーチだ。味澤氏は本エキスポのテーマが「共創」であるとし、「メタバースは特定企業が単独で構築できるものではない。本エキスポには産業界、開発者、クリエーター、関係省庁の方々に集結いただいた。メタバースを共に創っていく第一歩としたい」と連携を求めた。

メタバースはエンターテインメント分野のみならず、働き方や教育、医療、福祉など様々な分野での普及が予想されている。メタバース間の相互運用性が確立されれば、メタバースの生み出す経済効果は約3兆ドル(約402兆円)に上るという試算もある。

そうした中、米フェイスブックはメタと社名を変更し、本格的にメタバース事業に取り組む姿勢を見せている。同社の取り組みについて、味澤氏は「メタバースの実現に向けて、今まで培ってきた研究実績を基に、ソフトウエア、ハードウエア、基幹となるテクノロジーを提供することが我々の果たす役割だ」と紹介。さらに「日本では、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、これらを総称するクロスリアリティー(XR)へのユーザーの関心が高く、関連技術やコンテンツ、知的財産を開発する能力のある企業も多い。メタバースの最重要市場と考えている」と期待を示した。

官民一体で可能性開け

メタバースの発展には、「責任あるメタバースの構築」が重要であるとも提言。その実現のための4つのキーワードを発表した。1つ目は「経済的機会」。特定の企業がメタバースにおける技術や利益を独占するのではなく、オープンなデジタル経済をつくりあげていく。2つ目は「プライバシー」。利用者のプライバシーを保護しつつ、データがどのように活用されるのか透明性を持ってユーザーに伝え、ユーザー自身が活用の範囲をコントロールできるように配慮する。3つ目は「安全性と公正性」。トラブル防止のために、アバターのセーフゾーンやアバター同士の距離を設定するなどの機能の実装が必要となる。そして、4つ目は「公平性と包括性」。同社は基幹テクノロジーを提供していくが、それらに包括的でオープンなアクセスを可能にしたいという。

さらに「責任のあるメタバースをどのように構築していくか検討するため、我々はXRプログラム・研究基金を設立した。業界のパートナー、人権保護団体、政府機関、非営利団体、学術機関との協力関係が始まっている」と語り、メタバースの発展のために、「様々なプレーヤー、産官学が集まるこうした機会を、今後もつくっていきたい」と結んだ。

高まる期待、教育・福祉でも

メタバースにより、コミュニケーション、社会活動、経済活動、文化が大きく変化する可能性がある。それを踏まえ、メタバースに関するルール形成の必要性が政策立案の立場、ユーザー側の両面から議論された。

フェイスブックジャパン公共政策本部部長の小俣栄一郎氏は、積極的な行動の早期開始が重要だと指摘。「メタバースは少なくとも今後5年から10年かけてつくりあげていくものだ。長い道のりになるが、官民で共に管理・ルール形成をしていく必要がある」と話した。

フェイスブックジャパン公共政策本部、栗原さあや氏による司会で、教育や福祉の領域でのメタバース活用の可能性と課題について議論が行われた。福祉面では、VR空間に没頭することで自然と身体が動き、リハビリのモチベーションにもなっていること、教育面では、コストを抑えつつ豊富な学習を提供し、多様な能力開発が行われていることなどが紹介された。両分野とも、メタバースならではの身体性を伴ったコミュニケーションが、活用の鍵となることが確認された。

高速度・大容量の通信の実現を

メタバースでよりリアルな体験を提供するための高速度・大容量通信の実現について議論が行われた。

登壇したメタのアラン・ノーマン氏は、6ギガヘルツの周波数帯を利活用することの重要性を訴えた。実現すれば、ストレスのないコミュニケーション、同時接続性の拡大、VR普及の課題である「VR酔い」の克服、ヘッドセットなどのデバイスの小型化などが可能になり、ユーザー体験が大幅に向上すると説明。これにより、クリエーターやデベロッパーにとってもイノベーションの可能性が格段に広がり、産業界全体の経済メリットも計り知れないとした。

6ギガヘルツ帯の開放は2020年4月の米国を皮切りに、欧州、韓国、ブラジルなどで実現している。今後の日本の周波数政策への期待を示した。

会場内、仮想ニュータウン競演も

ニュータウンが続々と出現している。米西部開拓時代や日本の高度経済成長期よりも急激に建設が進む。舞台は3次元仮想空間「メタバース」。時は2022年、メタバース元年だ。

17のブースが並ぶエキシビション会場。暗号資産(仮想通貨)交換事業大手コインチェックが推進するメタバース都市空間プロジェクト「Oasis(オアシス)」の街並みが映し出された。既視感のある市街地をアバター(分身)が動き回る。新しい都市らしく、人もまばらだ。「東京を連想させる街並みの中で、様々なアーティストと交流してまちづくりをしていく」と同子会社コインチェックテクノロジーズの天羽健介社長は語る。東京と京都に似せた仮想都市「オアシスTOKYO」と「同KYOTO」を建設中で、うち「KYOTO」を22年秋に公開する予定だ。

都市は人々が交流し共生する場所。まちづくりには多様な人々との協業が不可欠だ。メタバース先導役の米メタも1社単独で実現するとは考えていない。これまでメタを含む米IT(情報技術)大手5社「GAFAM」は、デファクト・スタンダード(事実上の標準)を築いているように位置付けられてきた。しかしメタバースの構築に向けては、様々な分野のプレーヤーと協力し合い、産業界の動きを加速させようとしている。競争よりも共創を重視しているのだ。

会場では、メタが開発投資を続けるオールインワンVRヘッドセット「メタクエスト2」を使った実演が繰り広げていた。凸版印刷のブースで実際にこれを被ってVRの住宅展示場や自動車販売店に入ってみた。室内の距離感や家具の質感はさすがに強まる。「壁や机の手触りまで分かりそう」「運転席に座ったみたい」との体験者の声が上がる。

メタバースの特徴は①没入感②実際にその場にいる感覚③相互運用性――にある。この3つを満たすためにメタはヘッドセットの使用を提唱しているが、会場では必ずしもこれを使わない展示も目立つ。

大日本印刷は大型スクリーンに東京の神田明神社殿を高精細CG(コンピューターグラフィックス)で映し出していた。東京都千代田区と共創した都市連動型メタバースだ。ヘッドセット無しでも映像の前に立つだけで、案内役のアバターと交流しながら実際に社殿を巡っている気分になる。こうしたリアルとバーチャルを融合したXR(仮想現実、各超現実などの総称)体験も含め、各社は新市場を育てようとしている。

文化の様相も変わる。NTTドコモのブースでは、同社のバーチャルユニットアーティスト「タシットリー」が歌って踊っていた。同社が開発した汎用映像送出システム「マトリックス・ストリーム」がバーチャルライブを支える。ドイツの哲学者アドルノは「音楽社会学序説」で音楽の情緒的聴取の作用として、実生活ではかなわない体験を挙げたが、メタバースでは没入度が上がる。東京ガールズコレクション(W TOKYO)のブースでは、ファッションショーのランウェイが映し出されていた。ユーザーは着せ替えアバターで好みのファッションも楽しめる。

オフィスから商店、劇場まで、仮想ニュータウンの建設ラッシュは始まったばかりだ。「現実世界よりも滞在時間が増える」(天羽氏)というメタバース都市で不可欠なのはデジタルのトラスト(信頼性)だ。今回の展示企業をはじめ各社はトラストの仕組みづくりでも共創が求められる。

(池上輝彦)

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